大学の時に写真部に所属していて、4年間、写真を撮ってばかりだった。高校まではサッカー小僧で四六時中、サッカーをしていたが、選手としての限界も感じたし、大学に入ったら何かクリエイティブなことをやりたいと思っていた。そんな折にNHKのトップランナーという番組を見ていると金村修という写真家が出ていた。彼は史上最年少で土門拳賞(いわば写真界の芥川賞)を撮った、若手有望写真家だった。彼は徹底的に「都市=東京」にこだわり、東京のゴミゴミした景色を撮り続けていた。
番組中に彼が発する言葉は非常にクールで且つ含蓄があり、素直にかっこいいと思った。その時に大学に入ったら写真をやろうと思った。そして、後日、たまたまその番組の再放送をやっているのを見つけ、急いでビデオテープを入れて録画した。その番組はテープが擦り切れるほど何度も観た。
大学では彼の写真の真似事ばかりしていた、ゴミゴミした景色を見つけては、EOS70で撮りまくっていた。大学4年間で何万枚撮ったか知れない。インドやらタイやらにに旅行に行ったりして写真を撮ったりして、色んな写真展に出展したりしていたけど、今となっては作品としてとってあるのは彼の作風を真似た9枚1組の写真だけだ。
その番組の中でもうひとつ衝撃的だったのが、彼が新聞配達のバイトを続けていたことだ。新聞の束を電車に積み込み、山手線を一駅一駅降りながら、KIOSKに新聞を配達していた。彼の写真はそのバイトの合間に撮られたものばかりだ。「土門拳賞を取ってうれしかったことは?」と聞かれ、彼は「まとまった金が入ったこと」と答えていた。あとで調べてみたら、土門拳賞の賞金はたったの百万円だった。写真かというものはつくづく儲からないもんなんだと思った。というか、映画でも絵画でもたいていのクリエーターは儲かっていない。バイトしながらギリギリ表現活動を続けている人が大半だろう。どうにかならないものかとずっと考えていた。
Artcomplexというものの存在を知ったのは、大学3年の就職活動をしていた時だ。Artcomplexとは、小原啓渡という人がビジネスとしての舞台芸術の成立を目指して立ち上げた劇場で、個人投資家より出資金を集め、チケット収入より利益を分配するシステム(エンジェルシステム)を導入し、成功を収めていた。
「これだ!」と思った。
芸術+証券化。
一生、うだつのあがらない創作活動をしている人間には一生思い浮かばないアプローチだ。芸術で金儲けしたかったら、ビジネスを組み合わせないと絶対に上手くいかない。日本にはまだその仕組みが整っていないのだ。証券化に限らず、アイディア次第では日本のコンテンツ産業を盛り上げる仕組みの構築をすることができるのではないかと思った。
今でも、頭の片隅でこのことを考えている。シリコンバレーのエコシステムのど真ん中にいて、これを日本のコンテンツ振興のために活かせることも多いのではないか、と考えている。
金村修名言集より抜粋
【写真編】
「いい写真って、言葉から逃れてるんだよ。」
「とりあえず、撮る! 撮れる時に、撮る!」
「調子悪いのに出すとかさあ、駄目でも出すとかさあ、それでも止めない人が作家なんです。200本撮って、たった1枚っていう世界なんだからさぁ。」
【人生編】
「頭の悪い奴ほど、頭で考えるんだよね。」
「ずっとやってると、自分にとって重要なことが何かって、分かってくる。」
「分かってほしいっていう心境は捨てた方がいいです。」
「作為を隠すことでモノが立ち上がってくるんですよ」
「みんな、よく、あきたらやめろって言うけどさ、あきてからが勝負だからね」
「感性は考えた果てにあるんだよ」
「木を隠すには森の中」
「新しいんだけど、だから何だっていうの?」
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